ともいきエッセー

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ともいきエッセー vol.41

「南無阿弥陀仏でいいんだな!」

 前回の続き。ガンの宣告をうけた友人を見舞った。手術を2日後に控えた彼は、家族のこと、まだ死にたくない、死んだらどうなるという、まさに前回記した3つの執着心に陥っていた。
 「先生は、『まだ初期だから心配することはないですよ』って言うけど、開いてみたらかなり進行していたってこともあるだろ。それに手術が失敗することだってないとはいえない......。なんで俺が......」と訴える。「まぁ、それは有り得るな。腹を開いたら、もう全身に転移していて、そのまま閉じちゃうこともあるって聞いたこともある。でも、まあ、それはしょうがないだろ、好き勝手な生き方をして、奥さんを随分泣かしてきたんだから。その罰だよ。手術後はその傷がそうとう痛いっていうからな。手術まであと2日、これまでの人生を反省するんだね」と小生、言ってやった。
 彼の奥さんに言わせれば、ガンはまだ初期で、手術も難しいものではないのに、独りでいろいろ想像して怖がっているらしい。「この際、もっと脅かして、少しは家族のことを考えるようにしてくださいよ」と言われていた。
 小生、面会から帰るとき「あと2日、ぜいぜいこれまでの人生を反省して、寝るときに南無阿弥陀仏、起きたら南無阿弥陀仏、それから、手術の日、麻酔をかけられる前に南無阿弥陀仏って称えてみな、少しは心が落ち着くよ。だって極楽が決まってるんだから」と、少々冗談気味に言ってやったら、彼、真剣な眼差しで「南無阿弥陀仏でいいんだな」と。(J)

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