ともいきエッセー

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vol.61 「浮き世か、憂き世か」

 8月になった。各地でお盆の行事がはじまるだろう。しかし最近、都心でのお盆が変わりつつある。都心では7月盆が主だが、お盆の棚経を断る家が増えている。共稼ぎで家に誰もいないから、老いた老父老母が施設に入ったから、費用が負担になるから、僧侶の来る時間がはっきりせず、待っているのが面倒だから......などなど、理由はさまざまだ。

また、盆踊りも中止になるところが出てきている。近所の人から「うるさい」と苦情があるからと。除夜の鐘と同じだ。

 こんなことでいいのだろうか、と思う。事情はいろいろあるだろうが、棚経も盆踊りも日本の文化であり風物詩となっているものだ。僧侶が自転車や単車に乗って、汗を垂らしながら家々を回る姿、子供たちが笑顔で踊りの輪に入って踊る姿や、露店でお菓子を親にねだる姿は、思い浮かべるだけでも季節を感じさせてくれる。

これがだんだん廃れてくる。やめてしまうのは簡単だ。しかし、やめたものを復活するにはかなりの労力を必要とする。現代社会の即物的価値観や主張で、それまであった伝統や地域の協調性を廃止して、本当にいいのだろうか。世間は、上辺の楽しさを求めて右往左往し、自己中心的な意見に忖度する。浮き世ではなく、憂き世だ。

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