ともいきエッセー

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ともいきエッセー vol.30

「ああ、おまえはなにをしてきたのだ」
  
 中原中也の詩「帰郷」に「さやかに風も吹いてゐる (中略) ああ、おまえはなにをしてきたのだと... 吹き来る風が私に云う」という一節がある。自分のこれまでの人生を顧みているのだが、若いときに読んで、この一節だけをよく覚えている。夢と志をもって故郷を後にしたが、はたして、その志を忘れずに日々努力を重ねてきただろうか、と、故郷の風景を見ながら思う感慨だ。
 後悔のない人生なんて無いと思うが、その後悔を少しでも少なく充実した人生にするには、「ああ、おまえはなにをしているのだ」と、常に我が身を省み考える時を持つことではないだろうか。
 このエッセーに、「ああ、おまえはなにをしているのだ」と、これまでの人生と今について書こうと考えていたら、東京都知事の騒ぎが頭に浮かんできた。寄ってたかってリンチのごとく責め立てる都議・都民やメディア。知事に対しては「恥を知れ!!」とも言いたいが、反面「ちょっとかわいそうだな」とも思ってしまう。知事はこの一件で、これまでの人生のすべてを失ってしまうのだろうか、再起はできるのだろうか、今、どんなことを考えているのだろうか、と。「ああ、おまえはなにをしてきたのだと」と我が身の半生を顧みているだろうか。
 人間、だれもほじくれば善い事も悪い事いろいろなことがあるだろう。「正論に反論なし」ともいうが、我が身のことを忘れて他者を一方的に責め立てるような今日の世相を、ただただ憂えるだけだ。(J)

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