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ともいきエッセー

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vol.68「死にたいんじゃない、生きていたくない」

 「死にたいんじゃないの、生きていたくないの」。何年か前、居酒屋で若い女性と話していた時、手に持った杯をじっと見つめながら、ふと思いついたように女性は言った。それまでは楽しそうに笑ったりしていた彼女だったのに、突然の変化だった。一瞬、彼女が何を言ったのか分からず、じっと杯を見つめている彼女に「えっ?」と訊きなおすと、彼女は、まるで他人事のように同じ言葉を繰り返した。

 「オッ、青年の悩み、いいなぁ、もっと悩め」と小生は言った。なぜ、そんなことを言ったのかは分からないが、小生も学生時代からしばらくの間、なぜ生きなければならないかで真剣に悩んでいたことがあり、そのとき知人の老人がこの言葉を言ってくれたことが脳裏にあったからかもしれない。

 いつの時代もそうかも知れないが、青年の死因の1位は自殺である。どのように生きたらいいか、自分を見、社会を見、そして考え悩む。生きる理由はなかなか見つからない。真面目な人ほど深い悩みに落ち込むだろう。そんな人間社会なのである。それが「生きていたくない」と思わせる。死にたいのではない。生きる意味が分からないのだ。彼女はいまだに悩み考えているだろう。それでいいと思う。なぜなら、小生もあれから50年、いまだに答えを見つけられず悩み考えているのだから。

 しかし、何がこうした状態から抜け出すきっかけになるか。それは、自分の将来への夢であり展望だ。努力が実るような社会であり、若者がそう思える社会であることだ。そしてそれは、大人が活き活きと生きている姿を見せることだ。

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