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ともいきエッセー

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vol.79「余計なこと言わないで」

 先日、妻に誘われて日帰り温泉に行った。日中だからか温泉はすいていて、小生と同じような年代の高齢者が数人、ゆったりと湯船につかっていた。聞くともなく彼らの話が耳に入ってきて、ちょっと驚いてしまった。

 その話とはこうだ。

 「こないだ、孫がご飯やおかずを残しているから、『残さないで、最期まできれいに食べなさい』と言ったら、母親である嫁が『お爺ちゃんは、余計なこと言わないでください』って怒られてしまった」と言うのである。聞いていた相手は、「今は昔と違って、そんなことをいう親はいないから、俺たちの言うことは余計なことなんだよ」と。「いや、こんなことを黙って許していたら、人の家に呼ばれたりしたとき、『なんて躾のできていない子』だと思われてしまうだろ」と。そして「でも、嫁の怖い顔見たら、俺なんにも言えなかった」と。

 小生、この会話を聞きながら、「おじさん、その母親を叱らなきゃだめだよ」と心のうちで叫んでいた。今日、家庭での食卓は、かなり乱れているという。先般、当財団が開催したフォーラムでも、講演者の岩村暢子さんがその乱れを強調していた。

 温泉での話は、まさに岩村さんの話を実証するような話だった。しかし、この話には怖いオチがついた。「こんな子が成長したら、どんな世になるんだか。見たくねぇな。早えとここの世とおさらばしたくなったよ」「そうだな」と。

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