ともいきエッセー

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vol.120 「まるで昔話の風景」

 11月17日午前8時、電車はJR奈良駅から巻向へ向かって南下を始めた。しばらく住宅街を縫うように走った電車は、最初の駅「京端」に着く、〝きょうばた? 面白い駅名だな。何か謂れがありそうだ″と思いながら、はたしてこの「京」は奈良か京都か?と。いや、奈良だろう。歴史のある地だからこういう名が残っているのは当然だ。そんなことを想像しながら次の駅に着いた。「おびどけ(帯解)」、これもまた謂れを感じさせる駅名だ。想像は膨らむばかり。京端が奈良の都の端だったとすれば、都を訪れた人が京端を過ぎ、〝ああ、もうすぐ自宅に着く″と、ホッとして着物の帯をゆるめたのだろうか、なんて勝手な想像をしていた。翌日、事務所に出て調べたら、今から約1,100年前の文徳天皇の時代、お妃がこの地の帯解子安地蔵尊へ子授けと安産祈願をしたところ、みごと後の清和天皇を産んだということで、ここに寺を建て帯解寺と勅命したと伝えている。歴史のある地の話はとにかく古い話がいっぱいだ。日本で一番古い安産祈願の寺だという。

 電車は天理を過ぎてから、窓外は田園風景に変わっていった。家々の庭には柿の実が赤く、たわわに実っている。ぼんやりと窓外を眺めながら、昔の人たちはどんなことを思いながら日々を暮らしていたのだろうか、なんて考えていたら、稲刈りの終わった田で、稲わらでも燃やしているのだろうか、白い煙が晴天の下、穏やかな秋風にのってゆったりと田の上をたなびいている。〝あれっ、どこかで見た風景だ″と思ったら、すぐに思い出した。子どものころに見ていた「日本昔話」だ。赤い柿の実と白くたなびく煙、そして藁ぶき屋根の家。「♪ぼうやいい子だねんねしな......」、テーマ曲まで頭の中に浮かんできた。

 都会の雑踏の中で生きて70年、こんな風景を見て「ああ、いいなぁ! 長閑っていうのはこんな情景を言うんだろうな」と思った。まさに「やまとは くにの まほろば たたなづく 青がき 山こごもれる 大和し うるはし(倭建命・古事記)」。自分が日本人であることを、「良かった」と感じさせてくれた窓外の風景であった。

 (この風景は、ともいき財団が助成している寺院の一つである、奈良県桜井市の九田寺を訪ねたときの往きの電車内で感じたもの。事業については財団ホームページ内下記をご覧ください)

https://tomoiki.jp/report/19_11_390.html

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