ともいきエッセー

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vol160「『失敗の本質』を読もう」

 昨夜、床に入ってから、今年ももう終わるのだから、今年最後の「ともいきエッセー」を書かなければと思い、何を書こうかと考えた。
 と言っても、今年を振り返ったら、新型コロナウイルスの感染以外には思い当たらない。この欄での新型コロナ感染関係の初出は3月9日、トイレットペーパーなどが買い占められた時だった。この時は、まだ自分の中にそれほどの緊迫感はなかった。以来、何度か新型コロナウイルス感染について書いてきたが、そのたびごとに、感染は拡大していた。そして今、感染はますます広がり医療崩壊の危機さえ伝えられている。そしてまた、イギリスや南アフリカではウイルスの変異種が現れ、感染力も強いと報じられている。世界中が今、新型コロナウイルスの感染被害に覆われているのだ。
 それにしても、この新型コロナウイルスの感染は、失業や派遣切りを生み、また営業自粛などによる経済的な困窮をはじめ、学校の休校やオンライン授業、テレワークなど、これまでの社会のあり方から生活の隅々までを大きく変えている。そしてこれは現在も進行形だ。ここで一つひとつを示さなくても日々のニュースやワイドショーなどで細かく取り上げられているから、みなさんも身をもって感じていることが多いだろう。
 そして、こうした状況への政府の政策にも不満がたまっている。
 こんなことを考えながら、ふと、以前にこの欄(135「日本人って」)で書いた日本人の思考というか気質というか体質というか、日本人らしさについて考えた。前回の「日本人の気質」では日本人の良い気質について書いたが、今回は、135で引用した『失敗の本質』に書かれている欠点ともいえる所を再度ここに示してみたい。
 「人間関係や組織内融和の重視は、・・・組織の合理性・効率性を歪める結果となってしまった」、「いかなる軍事上の作戦においても、そこには明確な戦略ないし作戦目的が存在しなければならない。目的のあいまいな作戦は、必ず失敗する。それは軍隊という大規模組織を明確な方向性を欠いたまま指揮し、行動させることになるからである。本来、明確な統一的目的なくして作戦はないはずである。ところが、日本軍では、こうしたありうべからざることがしばしば起こった」、「作戦目的の多義性、不明確性を生む最大の要因は、個々の作戦を有機的に結合し、戦争全体をできるだけ有利なうちに終結させるグランド・デザインが欠如していたことにあることはいうまでもないであろう。その結果、日本軍の戦略目的は相対的に見てあいまいになった。この点で、日本軍の失敗の過程は、主観と独善から希望的観測に依存する戦略目的が戦争の現実と合理的論理によって漸次破壊されてきたプロセスであった」、「日本軍の戦略策定は一定の原理や論理に基づくというよりは、多分に情緒や空気が支配する傾向がなきにしもあらずであった」、「日本軍は結果よりもプロセスを評価した」、「個人責任の不明確さは、評価をあいまいにし、評価のあいまいさは、組織学習を阻害し、論理よりも声の大きな者の突出を許容した。このような志向が、作戦結果の客観的評価・蓄積を制約し、官僚制組織における下克上を許容していったのである」
 これは、旧日本軍の作戦などの失敗を組織論の観点から著したものだが、こうした傾向は、現在の多くの組織の中にも見えている。いや、そればかりではなく、これらの思考法は、今の私たち日本人の一人ひとりの中にもあると思えてならない。思考法としては何も変わっていない。しかし、そうした自覚もなく今の政治に対して批判や不満を耳にするが、そうした政治家を選んでいるのは、誰あろう、私たち自身であることを忘れてはならないと思う。それを自覚することが大切なことだと思う。でなければ変われないのだから。まさに、「浄土宗21世紀劈頭宣言」に言う「愚者の自覚を」だ。
 近年の日本社会を見ていると、人々は孤立し、じわじわと真綿で締め付けられるような息苦しさを感じているのではないか。これが新型コロナウイルスの感染拡大による自粛や経済的な低迷などによってますます増幅し、それが日々の鬱憤を晴らすように、さまざまなことで他者への批判や、誹謗中傷、偏見、差別となって表れているように思える。しかし、わが身を振り返ってみれば、こうした様々な思いが自分の中にもあることに気が付くだろう。そうすれば一方的に他者を責めるのではなく、許すという寛容性も生まれてくるのではないか。寛容の心は、ともに生きる社会の実現に欠くことのできない要因だ。
 この師走から新年にかけては、自粛が勧められている。『失敗の本質』でもゆっくり読み、自分を顧みるとともに日本人の思考や体質などを知る時間にしていただけたらいいのではないかとお勧めしたい。僕も読み返そうと思う。
 どうぞ、よいお年をお迎えください。

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