ともいきエッセー

一覧へ

vol 163「解決策はあるのか?」

 「現代文明は、グローバル資本主義、大衆民主主義、科学主義とイノベーション、自由主義、それに実証主義や計量主義といった価値をほとんど暴走させてしまっている。それに対する有効な歯止めはどこにもない。しかもそれらの無限の追求が人間の幸福をいっそう増進するだろうという漠然たる期待が支配している。だがまた、これらの今日支配的な価値がわれわれの生を相当に窮屈なものとし、伝統を破壊し、人々の安定した関係を崩壊させている」

 これは、昨年の10月に発行された思想家・佐伯啓思氏の『近代の虚妄』の終章に書かれている言葉だ。たしかに、この現代文明は、世界的であり、日本社会もこの流れの中にあると思う。生きていることの窮屈感はたしかに誰もが感じている。しかし、こうした問題や課題を提示しても、佐伯氏がこの終章の続きで指摘しているように「世の中に楽しいものがいくらでもあるのに、何が問題なのさ」と、指摘する困難さがあると。これもたしかにその通りだと思う。現代日本人の生活ぶりを見ていると、「今だけ、金だけ、自分だけ」的な考えで、背後に迫っているこれらの文明崩壊の危機など感じていないように見える。佐伯氏は、さらに、「課題はわかるが、解決はない。といわれればまさしくその通りである。だが解決は見えないとしても、どこに課題があるかを知ることは決定的に重要であろう」とも述べている。

 佐伯氏は、さらにこの書の中で、大いなる超越者への畏怖心を否定し、人間中心主義になっている世界的な宗教心の否定の流れに言及するとともに、西洋の「有の思想」の歴史と日本の西田幾多郎の「無の思想」などを解説し、宗教心の大切さを訴えてもいる。

 いま、世界、そして日本は、新型コロナウイルスの感染拡大の中で、これまで信じてきた文明にたいする価値観に疑問を持ち始めている。何かがおかしい、とだれもが思い始めている。温暖化などの実感する問題も目の前に見えている。これも現代文明による現象の現れだ。しかし、その〝おかしさ″の解決策は、欲望という渦潮に巻き込まれて暮らしているわたしたちには見えていても、今を暮らしている楽しさで、現実の問題として見て見ぬふりをしているのかもしれない。コロナ後の世界を考えるうえで、佐伯氏の言う「どこに課題があるかを知ることは決定的に重要であろう」という言葉は、大切な言葉として肝に銘じていたい。そして、この人間社会を誰もが助け合い、他者を思いやって活き活きと生きていくためには、宗教の大切さを見直す必要があるのではないかとも思っている。

  • 助成金
  • ともいき財団Twitter
  • 浄土宝暦
  • 活動レポート
  • ともいきエッセー

このページのトップへ